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山口一男君の文化功労章受賞を祝す

 

山口君は73回の卒業生で、東大理学部数学科を卒業後、総理府統計局調査部で経済統計や労働統計の業務に従事し、その後渡米してシカゴ大学で社会学の博士号を取得した。それからコロンビア大学の公共衛生大学院で助教授、カルフォルニア大学ロサンゼルス校社会学部准教授を歴任し、シカゴ大学社会学部の教授となった。

 

高校時代の山口君はクラスで大言壮語をする学友が多い中で、穏やかで目立つような存在ではなかったように思う。ただ合唱部の指揮者となり当時は音楽に情熱を傾けていたようだ。

 

大学では数学を専攻したが、そのまま大学に残ることもなく、公務員になった。当時、数学を専攻して公務員になるのは、政策の立案に客観的なデータが求められるようになったためであるが、これらの得られたデータを客観的に解析するためには検証が可能となる統計学の知識と手法をこなせる人材を必要とした。このため数学を専攻して公務員になった学生も当時からすくなからずいたのである。

 

彼は総理府で実地の統計業務を経験した後、渡米してシカゴ大学で再び、研究の道に進んだ。シカゴ大学の社会学部はその研究スタイルからシカゴ学派と呼ばれる。1880年代に寒村であったシカゴは1920年代に270万人の人口を抱える大都市となり、都市特有の様々な問題が発生した。この課題を解決するために、実証的な研究スタイルで取り組んだのがシカゴ大学の社会学部である。

 

この実証的な研究スタイルは現在に引き継がれ、山口君の研究スタイルも実証的な統計を駆使して行う計量分析で、そのなかでもイベントヒストリー分析に関しては教科書を出版している。

 

研究テーマは広範に及ぶが代表的なものに、就業・職業キャリアや結婚・出産などのライフコースの研究がある。多くの研究成果が論文として出版されているが、2003年には米国科学情報研究所より1981年から1999年の間に社会科学一般の部で被引用文献多数の250人中の1人として認められた。2008年の秋学期にシカゴ大学社会学部長に就任した一方で、彼はまた2003年からエビデンスに基づく政策提言を行うことをミッションにした日本の経済産業研究所の客員研究員として日本におけるワークライフバランスや雇用における男女の不平等の研究を始め、その成果である2017年の『働き方の男女不平等―理論と実証分析』は日経図書文化賞を受賞した。

 

実証を重んじた自然科学の分野では得られた結果は他の人が追試を行っても同じ結果が得られることを基本として現代の科学が確立し、社会の基盤となる技術の発達や産業の高度化に貢献をしてきた。

 

今回の山口君の文化功労章受賞は、人文系の学問といわれる社会学においても科学としての社会学の実証的な研究の成果は、国や地域のより良い発展のための政策立案に欠かせないことを示したことが要因であると言える。

(73回5組 小島建治)

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